藩政時代からの城下町文化が粛々と生活に根付いている鶴岡市と村上市、北前船で栄えた港町文化の酒田市の街並みは旅情を誘い、かつて松尾芭蕉が旅した「おくのほそ道」の最上川舟くだりや象潟は、多くの文人墨客が憧れたように旅人を魅了します。
北前船文化
~交易による独自の文化が息づく土地~
江戸の人口増加により米の需要が増したことにより、寛文12年、幕府は江戸商人の河村瑞賢に命じて、年貢米の輸送路として「西回り航路」を整備しました。日本海~瀬戸内海を経て、大阪、江戸へと至る航路で、酒田港はその基点として大いに発展、湊町、商人のまちとして飛躍的に栄え、上方などの文化が伝わりました。
酒田から上方に運ばれた物資の中には、米のほかに紅花や青そ(イラクサ科の多年草。高級織物の糸として、武士の裃(かみしも)や富裕階級の単衣などに使われていました。)などがありますが、これらは最上川の舟運によって港に運ばれたものです。
最上川は、海岸と西廻り航路をつなぐ大動脈として県の特産品をはじめ物資と文化を伝播する水路の役割を担いました。海運、舟運によって結ばれたこのエリアには多くの豪農や豪商が誕生しました。その豊かな財力により、多彩な文化が伝来し、醸成され、特有の風土が築かれたのです。
象潟郷土資料館 秋田県にかほ市
にかほ市の塩越湊、金浦湊、三森湊、平沢港は北前船の寄港地です。象潟郷土資料館では、北前船や塩越湊が描かれた象潟屏風や北前船に積まれた四爪碇、船箪笥、船往来手形(通航証明書)などが所蔵されています。
飛良泉本舗 秋田県にかほ市
平沢湊の近くにある蔵元です。室町時代の長享元年(1487)創業で、日本で3番目に古いと言われています。当時は、廻船問屋を営み、酒造を副業としていました。
舞娘茶屋 相馬樓/竹久夢二美術館 山形県酒田市
江戸時代に「相馬屋」の名で賑わいを見せた元料亭。上方の文化がこの地にとけこみ、現在もその粋と格式を伝えています。
日和山公園 山形県酒田市
園内には、日本最古級の木造六角灯台や方角石のほか、京・大阪との交易を担った北前船が1/2のスケールで復元されています。周囲には寄港地の説明板が並んでいます。
山居倉庫 山形県酒田市
明治26年に建造された米の保管倉庫で、現在も農業倉庫として使用されています。西日や季節風から建物を守るために植えられたケヤキ並木は見事。
旧鐙屋 山形県酒田市
酒田湊随一の廻船問屋で、その繁盛ぶりは井原西鶴の「日本永代蔵」にも記述が残されています。
本間家旧本邸 山形県酒田市
北前船で財を成した豪商・本間家の邸宅。3代目本間光丘が藩主酒井家のため、幕府の巡身見使宿舎として建築した旗本二千石格式の長屋門構えの武家屋敷。その後拝領し、本間家代々の邸宅になりました。武家屋敷と商屋造りが一体となった全国でも珍しい建築様式です。
丙申堂 山形県鶴岡市
庄内藩の御用商人として呉服・太物屋を営み、幕末には鶴岡第一の豪商となった風間家の七代当主が住居兼店舗として建てたもので、広大な板の間や蔵など商家の特徴をよく残しています。豪商の往時の面影を今に伝える貴重な歴史遺産として国指定重要文化財にも指定されています。
加茂港周辺の町並み 山形県鶴岡市
北前船で栄えた当時の町割りがそのまま残っており、地区内の浄禅寺には北前船で財をなした商人から寄進された釣鐘があります。この釣鐘は坂越(現在の赤穂市)から北前船で運ばれたものです。
龍澤山善寳寺 五百羅漢堂 山形県鶴岡市
海の守護神・竜神様を祀る龍澤山善寳寺の五百羅漢堂は北前船で財をなした商人たちの寄進によって建立されたもので、安置されている531体の同じ寄進により作られたものです。
旧青山本邸 山形県遊佐町
江戸時代から明治にかけて、ニシン漁で大成功を収めた漁業王の邸宅は、瓦葺の切妻造りの屋根に、春慶塗の長押や差鴨居などの贅を尽くしたものです。
渡邊邸 新潟県関川村
米沢街道の宿場町、関川村の豪農・渡邊家は敷地面積3000坪、母屋は木羽葺石置屋根という工法。廻船業や酒造業、新田開発などで富をなし、財政難に苦しんでいた米沢藩に幕末まで融資して、米沢藩勘定奉公格の待遇を受けました。国指定重要文化財。
東桂苑 新潟県関川村
明治38年創建、渡邊家の分家。木造2階建て日本瓦葺寄棟造りは当時の建築技術の枠を集めたものです。庭園はもみじが素晴らしく、11月に行われる「食地」の会場です。
精神文化
~人と自然をつなぐ山岳信仰~
日本では古来より、山や木々は神の住処(すみか)で、神によって生み出されたという考えがあったようです。古くから山岳信仰の文化が根付き、1000m級の山が稜線を連ねるこのエリアには、全国からの参拝客や観光客を集める名峰が点在します。霊験あらたかな山々を巡ることで、息づく悠久の歴史や四季折々の自然の美しさを感じることができます。
鳥海山 秋田県にかほ市、山形県遊佐町
山形県の最高峰であり、山形県と秋田県に跨る活火山。日本百名山と日本百景のひとつに数えられ、国の天然記念物である植物群や湧水群を見ることもできます。また、山頂には鳥海山を御神体とする「大物忌神社」があり、信仰の山としても知られています。
羽黒山 山形県鶴岡市
杉並木の間を縫うように続く2446段の石段が特徴的な、出羽三山の表玄関「羽黒山」。参道の途中には東北最古の塔「国宝・五重塔」や樹齢1000年と言われる国の天然記念物「爺杉」などがそびえ、霊験あらたかな雰囲気で参拝客や修験者を山頂へと導きます。
月山 山形県鶴岡市、山形県庄内町
高山植物や紅葉を眺めながらのトレッキングをはじめ、万年雪を活かしての夏スキーなど、四季を通じて様々な楽しみ方を持ち合わせている出羽三山の主峰「月山」。登山客はもちろん、山頂に鎮座する「月山神社」を目指して訪れる参拝客や修験者も数多くいます。
湯殿山 山形県鶴岡市
伊勢・熊野に並ぶ三大霊場のひとつ。出羽三山の奥宮とされる湯殿山本宮は、写真撮影禁止・土足禁止という厳しい戒めで知られています。まさに「語るなかれ、聞くなかれ」の修験道の霊地です。
出羽三山神社三神合祭殿 山形県鶴岡市
「出羽三山」とは、「月山・羽黒山・湯殿山」の総称。その中の「羽黒山」山頂に佇む「出羽三山神社 三神合祭殿」では、名前の通りそれぞれのお山の神様を合祭しており、ここに参拝することで三山詣でしたことになるとされています。かやぶき屋根の大社殿が特徴です。
即身仏 山形県酒田市、鶴岡市、新潟県村上市
飢饉や病に苦しむ人々を救済するために、自ら土中に入って仏となる即身仏。日本国内に十数体現存するといわれる即身仏は、「日本海きらきら羽越観光圏」内の6つの寺院に7体安置されています。(画像は海向寺)
おくのほそ道
~芭蕉の名句を訪ねる~
かつて、“おくのほそ道”の旅路でこのエリアを訪れた松尾芭蕉は、最上川を舟で下ってこの地に降り立ち、山形県の羽黒山、月山、城下町鶴岡、湊町酒田、吹浦、おくのほそ道 北限の地・秋田県の象潟、城下町村上へと旅をしています。
美しい情景を浮かび上がらせるような名句を数々残しており、その背景にある自然の豊かさ、地域文化の奥深さ、人情の温かさは今もなおこの地域に引き継がれています。
九十九島(くじゅうくしま) 秋田県にかほ市
かつては松島と並び謳われた景勝地で、芭蕉の「おくのほそ道」最北の目的地としても知られています。地震で地盤が隆起して、現在は潟が水田と化し、歩いて島めぐりができる日本唯一の「島」で、国の天然記念物に指定されています。
蚶満寺(かんまんじ) 秋田県にかほ市
仁寿3年(853)に慈覚大使によって創建された古刹で、現在でも「舟つなぎ石」や「西行桜」などが遺されています。境内には「咲かずのツツジ」・「木のぼり地蔵」など蚶満寺七不思議もあります。
最上川舟くだり 山形県戸沢村
「五月雨をあつめて早し最上川」の句で知られる日本三大急流の一つで、県の重要な水運を担った河川。船頭の「最上川舟歌」にのせて最上川峡を望む約1時間の舟旅を楽しむことができます。
日和山 山形県酒田市
船頭が日和見をしたという高台。敷地内には旅支度をした芭蕉像や「暑き日を海に入れたり最上川」ほか、庄内を詠んだ句碑があります。
羽黒山参道杉並木 山形県鶴岡市
「涼しさやほの三ヶ月の羽黒山」ほか三山ではそれぞれにちなんだ名句が詠まれました。参道の途中には国宝五重塔があります。
ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン三ツ星。
井筒屋 新潟県村上市
井筒屋の場所は、江戸時代は旅籠を営み松尾芭蕉と弟子の曾良が「奥のほそ道」の道中で2泊した宿とも知られています。現在の建物は国の有形文化財に指定。昨年3月より千年鮭きっかわが1年を通して村上伝統の鮭料理が食べられる村上初の鮭料理専門店として建物を受け継ぎました。
西郷隆盛ゆかりの地
~藩士たちの開墾物語~
戊辰戦争で幕府側であった庄内藩は、豪商本間家の支援もあり、最新の武器携えて新政府軍と激しく戦いました。負けることなく戦況を乗り切りますが、他藩が次々と降伏したため、戦には一度も負けなかった庄内藩も降伏します。藩主の酒井家13代酒井忠篤は、厳しい処分を覚悟で新政府軍参謀黒田清隆と会見しましたが、西郷隆盛の指示によるその処分は驚くほど寛大でした。深く感銘した庄内藩士たちは西郷に教えを受け、のちに「南洲翁遺訓」としてまとめています。
戊辰戦争後、元中老の菅実秀は西郷と親交を結び、開墾や養蚕業などの助言を受けました。近代国家の建設が急務だった日本にとって絹が外貨を獲得する一番の輸出品であったことから、松ヶ岡の荒れ地を切り拓き、絹産業を興し、庄内を輸出用シルクの一大産地にして、国や地域に貢献しようと考えたのです。
現在も養蚕から製品化まで一貫工程が一つの地域に集約されている産地はここ庄内のみ。
ここ数年前からは、蚕が繭を作るときに最初に吐き出す糸、キビソ絹を活用した製品のブランド化が進められており、鶴岡の絹の歴史はいまも発展を続けています。
荘内南洲会 南洲神社 山形県酒田市
西郷隆盛の遺徳をたたえ、南洲翁に関する遺墨、遺品、研究資料をはじめ、明治維新や荘内文学の書など数多く収蔵しています。
松ヶ岡開墾場 山形県鶴岡市
明治維新後の1872年(明治5年)旧庄内藩士が刀を鍬に持ちかえて開墾した場所です。開墾の歴史やシルクの魅力などに触れることができる展示施設があります。
致道博物館 山形県鶴岡市
かつての鶴ヶ岡城の三の丸、庄内藩主酒井家の御用屋敷だったところを博物館として公開しています。 国指定重要文化財の旧西田川郡役所の郡長室等には、庄内出土の考古学資料のほか、戊辰戦争や西郷隆盛関連の資料などが展示されています
鶴岡シルク株式会社 山形県鶴岡市
今注目を浴びている「kibiso」プロジェクト。地元のメンバーと、各分野のプロが一体となり、地域が誇るシルクという財産を活かすため、アイディアと技を出し合いながら試行錯誤を重ねています。
清河八郎記念館 山形県庄内町
新徴組は、庄内町出身で新撰組の生みの親と言われる清河八郎が設立に関与しています。
尊王討幕の魁といわれ、明治維新に大きな役割を果たした清河八郎にゆかりのある遺品等を収蔵・展示しています。 また近隣の歓喜寺には、清河八郎と妻・お蓮(れん)の墓が並んでいます。
城下町文化
~歴史と文化が息づく町並み~
山形県鶴岡市
質実剛健の藩風と明治・大正ロマンの情緒が残る町並み
庄内藩14万石の城下町・鶴岡。藩主酒井家が250年間居城とした鶴ヶ岡城の跡、鶴岡公園の周辺には貴重な歴史的建築物が点在しています。旧西田川郡役所、田麦俣多層民家などが移築されている致道博物館をはじめ、庄内藩校致道館、旧風間家住宅丙申堂、大宝館、鶴岡カトリック教会天主堂など、江戸から明治、大正にかけて建てられた建築物は、2~3時間内ですべて徒歩で散策でき、城下町と明治・大正浪漫を感じながらの町めぐりが楽しめます。
鶴岡カトリック教会天主堂
明治36年に建造された明治ロマネスク様式建築の傑作で、国指定重要文化財。世界でも珍しい「黒い聖母マリア像」が安置されています。
藩校致道館
文化2年に庄内藩酒井家九代目・忠徳公によって創出された、東北に現存する唯一の藩校(江戸時代に、諸藩が藩士の子弟を教育するために設立した学校)。現在は表御門、聖廟(せいびょう)、講堂、御入間などが残され公開されています。
致道博物館
旧西田川郡役所、田麦俣の多層民家など貴重な歴史的建築物が移築されているほか、ばんどりや漁労具など庄内地方の生活文化を物語る多くの民族資料が保存・展示されています。
大宝館
大正天皇の即位を記念して建設されたルネッサンス風ドームが印象的な擬洋風建築の建物。現在は郷土ゆかりの人物資料館として公開されています。
藤沢周平記念館
鶴岡市出身の時代小説家、藤沢周平の作品を深く味わう拠点。館内には数多くの作品を執筆した自宅書斎が移築・再現され、自筆原稿や創作資料なども展示。藤沢周平の作品世界と生涯を紹介しています。また、鶴岡地域にある藤沢作品ゆかりの20カ所には案内板が設置さており、訪れる人を小説の舞台へと誘います。
新潟県村上市
町造りや黒塀が続く風情豊かな城下町
新潟県の古い城下町として知られる村上市。城跡・武家町・町人町・寺町という城下町の構造がほぼ昔のまま現存しています。これは全国でも稀な例で、この秀でた景観を奥行きあるものにしたのが、市民プロジェクトによる「町屋を公開する」という企画でした。町屋造りの魅力は内装の建築の面白さ。囲炉裏や通り土間などの使いこなされたものの美しさや、そこに暮らす人との会話が、古き日本の良さを感じさせます。近年は、町並みのブロック塀を黒塀に変える取組みも行われ、町を歩いているとまるで江戸時代にタイムスリップしたかのようです。
若林家住宅
18世紀末に建てられた中級武家屋敷で東西の居室棟と南北の座敷棟、寄棟、曲屋形式の萱葺屋根住宅。村上城下の武家住宅で唯一国の重要文化財に指定。
黒塀のある町並み
歴史的な建物が並ぶ安善小路沿いに続く黒塀は、すべて市民の手作業で作られました。近年は松やモミジなども植樹され、さらに粋な風情を醸しだしています。
宵の竹灯籠まつり(10月第2日曜日とその前日)
城下町の情緒漂う小町通り・黒塀通り(安善小路)を中心に、約20,000本の竹灯篭が灯る。周辺の寺社や割烹などを会場に、琴や三味線、ギターなどの生演奏が行われ、界隈は幻想的な雰囲気に包まれます。
町屋の屏風まつり(9月15日~10月15日)
長い歴史と伝統を誇る村上大祭(国指定重要無形民俗文化財・毎年7月7日 本祭り)。 かつては祭りの室礼(しつらい)として屏風を立てたため、「屏風まつり」とも呼ばれていました。今ではあまり立てられなくなった、各家に伝わる貴重な屏風の数々を披露する催しです。
日本遺産
「日本遺産」は、地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリーを「日本遺産」として文化庁が認定するものです。このエリアでは、次の3つのストーリーが認定されています。
エリアマップ
アクティビティ
Things to do